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・・・どうしようもなく些細な日常に左右されている一方で、風の感触や初夏の気配で、こんなにも豊かになれるのですから。
人の心は、深くて、そして不思議なほど浅いのだと思います。
きっと、その浅さで、人は生きてゆけるのでしょう。
その言葉に、共感したし、打たれた。
星野さんのことは写真家、ということしか知らなかった。
そしてもう亡くなってしまっている。
星野さんはこの本で“情報がきわめて少ない世界が持つ豊かさ”や、“人間の日々の営みと平行して流れるもう一つの時間の大切さ”を、言葉を変えて何度も言っている。
アラスカで暮らした彼は、生活の中でそのことを実感していったけど、私たちはたぶん、意識しなければ・・・いえ、もしかしたら意識していても、難しいことかもしれない。
でも、日本にだって四季はあるし、動物はいるし、自然はある。
本当に望むなら、変わっていけると信じていたい。
どこかで立ち止まって、自分の目で見て、肌で感じて、自分の心にじっと耳を傾ける。
そして、方向を決める。
そんな、わかってるようでわかってないことを、星野さんは優しく、強く、魅力的な言葉でささやいてくれている。
もっと、この人の本を読みたいし、この人が写したものを見たい、と思った。
そして、大人も子供も、たくさんの人に、ぜひ、星野さんの世界に触れて欲しいと思う。
『旅をする木』 星野道夫